デビュー盤『奇跡のカンパネラ』、『憂愁のノクターン』と2年連続して、
日本ゴールドディスク大賞クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤーに輝
いた奇跡のピアニスト、フジ子・ヘミングがイラストを担当した初めての
絵本が本書である。
少し豊かな家々にはピアノが備えられはじめた時代に、母と少女はふたり
だけのつつましい生活を送っていた。ピアノが大好きな少女のために母が
与えたのは、紙のピアノ。そんな紙のピアノがおこす奇跡とは…?
ほんの少し昔の時代への郷愁が全体から感じられる絵本だ。
落ち着いたトーンのイラストがほとんどを占め、その世界観は巻末に寄せ
られたフジ子・ヘミングの文章へと続いていく。
「私と弟が寝ると、母は必ずショパンを弾いていたの。子ども心にも、
なんて素敵なんだろうと思ったわ。」
いつまでも少女の純粋な気持ちを忘れたくないというフジ子・ヘミングの
気持ちが隅々から伝わる本書は、彼女のファンだけでなく、ほんの少し
昔に少女だった大人たちに読んでもらいたい1冊である。(小山由絵)